オスの家政夫、拾いました。3. 料理のガキ編
サラリーマンなら、誰しも胸の奥底に辞表を抱いて毎日出勤するものだ。もちろん彩響だってそうだった。社会人生活は決して楽ではなかったが、何度も何度も辞めることをやめた結果ここまで時間が流れた。
しかし、もう悩んでいる場合ではない。今自分が抱えている案件や、その他諸々の引き継ぎをどうするべきか、そして辞めたあとの生活費はどうするか…そういうことをEXCELで一つ一つ書き起こしている中、机の上においてあったスマホが鳴った。誰だろう、知らない番号…。電話に出ると、意外な人物の声が聞こえた。


「峯野さん、こんにちは。今瀬です」

「今瀬さん?」


どうして今瀬さんが自分に電話を?彩響の疑問を察したのか、さっそく今瀬さんが要件を言った。


「突然すみません。ちょっと峯野さんにお話したいことがありまして」

「え?私にですか?」

「はい。もし良かったら、丁度峯野さんの会社の近所に今いますので、お茶でもどうでしょう」

「いや、そんないきなり…」

「そんな長くは時間を取りませんので、よろしくおねがいします。林渡のことです」


断ろうとした瞬間、「林渡」という名前に体がビクッとする。え、どうしたの?なにかあったの?彩響はそのまま席から立ち上がり、ジャケットを取った。


「分かりました。今どちらですか?」

「ダイビルの下のカフェです。奥の席でお待ちしております」


――「峯野さん、こっちです」

カフェの奥の席で、今瀬さんがこっちを見て手を振る。その近くに行った彩響は、テーブルに集まっている他の人達も見て更に怪訝な顔をした。


「よ、病院で会ったぶりだね」

「河原塚さんに、三和さんまで…一体どうしたんですか?」


4人席のテーブルには今瀬さんだけではなく、家政夫メンバーも勢揃いしていた。空いている席に座ると、周りの視線がこっちに集中する。あ、そうだよね、こんなイケメンたちの中に女一人混ざると誰もが興味持つよねー。皆の顔を見回した彩響が質問した。


「あの、林渡くんになにかあったんですか?」


その質問に、3人はお互いの顔を見て、なにか合図を交わす。まるで誰が先に話をするか、様子を探っているように見えた。苛立たしい気持ちを抑え待つこと数分、驚くことにその中で最も無口そうな三和さんが口を開いた。


「実は、林渡が今悩みを抱えているらしいので、勝手ですが、その件を峯野様にお伝えしようと思って」

「一体なんですか?さっさと言ってください」


イライラしてついきつく言ってしまった。三和さんは又他のメンバーたちを見回して、その後本題を話した。


「林渡は自分の学校からフランスに行くことを提案されたらしいです」

「…え?」

フランスに行けと提案されたってことは、つまりー

「つまり、留学を…勧められているとのことですか?」

「そうです。成績優秀で、そちらにある大学に交換留学するよう推薦されたようです」

「凄い…」


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