世界が私を消していく


心臓が痛いくらいに大きく鼓動を繰り返し、手が震えてスマホを握れなかった。

私を嫌いだと言った英里奈がこの状況で一体なにを送ってきたのだろう。

メッセージを開くことを躊躇いながらも、おそるおそる指先でタップする。


「え……?」

そこには想像とは違う言葉が書いてあった。


【大丈夫? 一度休んだら、紗弥がもう学校に来れなくなりそうで心配。学校行きたくないかもしれないけど待ってる】


私のことを気にかけてくれている英里奈に驚きながらも、目に涙が浮かんでいく。


【私のこと、信じてくれるの?】

返信をするとすぐに既読になった。

【こないだ色々と酷いこと言っちゃってごめん。だけど、紗弥がこういうことするとは思ってないよ】

英里奈からの文章を読んで、私はスマホを握り締めて額に押し付ける。

そして改めて、【本当にあのアカウント作ってないし、投稿もしてない】と英里奈に事情を打ち明ける。


【紗弥の言葉、私は信じる。だから、辛いときはいつでも連絡して!】

〝ありがとう〟そう打ちたいのにスマホの液晶画面に涙が落ちて、うまく打てない。

たったひとりでも、味方がいてくれる。それだけで真っ暗闇の中に沈んでいた私の心に光がさす。

涙を服の袖で拭って、私は勢いよく部屋を出る。


「お母さん! 私やっぱり学校行く!」

リビングにいるお母さんに聞こえるように叫ぶように言うと、私は慌てて学校へ行く準備を始めた。



それから二日が経っても、全く事態は収まらなかった。
けれど、英里奈は目が合えば笑みを向けてくれて、励ましのメッセージを送ってくれる。


一緒にいると巻き込んでしまうため、行動は別にしているけれど、英里奈の存在は心強い。

それと時枝くんと目が合うことが何度かあったものの、避けてしまっていた。
好きな人からどう思われているのか知るのが怖いという思いもあるけれど、彼のことを巻き込みたくない。

もしも私と話すところを見られたら、なりすましになにを書かれるかわからない。

人と接するのが怖い。私が誰かと話せば、その人が今度は書かれる可能性がある。



だけど、こんな日々はいつまで続くの?

私はいつまでひとりぽっちで、誤解されたままでいたらしいの?



クラスの中でいない者のように扱われるのではなく、鋭い視線が教室中から向けられている。

私のことをコソコソと話している声も時折聞こえてくることもあった。他にも隣のクラスの人たちまでもが、わざわざ見にくるほどだった。


「あの子? 裏垢作ってバレたって子」
「鍵かけないとか馬鹿すぎるでしょ」


身に覚えのないことを私だと決めつけて話される。そして私が立ち上がると、話しかけられないようにとみんな外方を向いていた。
 



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