世界が私を消していく
背後から右腕を掴まれて、振り返る。
息を切らした時枝くんが、眉根を寄せて険しい表情をしていた。そしてもう片方の手には赤い包装紙でラッピングされた箱を持っている。
……さっきの子の受け取ったんだ。
『清春はいつでも本命チョコ受け取るよ〜!』
一条くんの言ってたことを思い出して、胸が軋む。
時枝くんを呼び出した子は頬を赤らめていて、本命のようだった。もしもあの子と時枝くんが上手くいったのだとしたら……私は左腕でカバンを抱きしめる力をぎゅっと強くする。
「話がしたい」
「……話?」
顔が強張っていて、私を見つめる眼差しが冷たく感じた。
時枝くんが話題にしようとしていることは、アカウントの件に違いない。けれどこの状況で、私は時枝くんになにを話せばいい?
私じゃないよって、口にしても真衣たちたちに信じてもらえなかった。
時枝くんにも信じてもらえなかったら、私は心が折れてしまいそうだ。
だけど無視をせず、こうして声をかけてくれた彼なら私の話を真剣に聞いてくれるかもしれない。一縷の望みをかけて、私は時枝くんを見つめる。
「あのアカウントのことだけど、宮里なの?」
改めて確認をとってくるような発言に、落胆してしまう。
なにを期待していたのだろう。
きっと私は疑うように問われる言葉ではなく、最初から信じてくれている言葉が欲しかったのだ。
涙で視界が滲んで、今時枝くんがどんな表情をしているのかわからない。
「〝違う〟って言ったら、信じてくれるの?」
きっと私は酷い顔をして笑っていると思う。私の腕を掴んでいた時枝くんの手を勢いよく振り払った。
「っ、宮里」
どうせ時枝くんだって私の言葉よりも、周りの言葉を信じているくせにと内心毒づく。こぼれた涙を手の甲で拭い、その場から走って去っていく。
仲が良かったクラスの友達も、付き合いの長い友達も信じてくれないのだから、時枝くんだって信じてくれるはずがない。
もう嫌だ。なにもかもなかったことにしたい。消えてしまいたい。
お願いだから、私のことを見ないで。