世界が私を消していく



「あ、知香ちゃんと結芽ちゃん一緒にいる」

窓から校門を見下ろしながら、拓馬が身を乗り出した。

拓馬のクラスの女子なのか、下の名前を聞いてもさっぱりわからない。けれど、視線の先を見ると、見覚えのある女子ふたりだった。時々拓馬と一緒にいるのを見たことがある。


「昨日まであのふたり、すげー険悪だったのに。なにもなかったみたいに仲良くなってんのすげーよな」
「へー」
「しかも俺が知る限り、三回目。なんで女子って、くっついたり離れたり繰り返すんだろうな〜」

拓馬は女子と仲良い分、いろいろ巻き込まれやすいらしい。だからよく〝女子の問題には口を出さない方が身のためだ〟って言っていた。


『——さんのこと、——でも今清春が女子のことに口出したら逆効果だから』


最近言われた気がするのに、詳しく思い出せない。
なんで拓馬にそんなこと言われたんだっけ?


「拓馬、俺って女子の喧嘩に巻き込まれたことってあったっけ」
「は? 清春が?」

眉根を寄せた拓馬が、少し考えてから首を傾げる。


「いやー、特になくね?」
「……だよな」

ならなんで、俺は拓馬に女子達の問題に口をだすなって止められた記憶があるんだ。

夢と混同しているのか、それとも昔あったなにかと記憶が混ざっているのか。

けれど大事ななにかが頭から抜け落ちているような違和感に、もどかしさを覚えた。

あのあと、他のクラスを覗いてみた。顔を覚えていないものの、会えばわかるかもしれないと思ったからだ。けれど、結局折り畳み傘を貸してくれた女子はわからないまま。

同じ学年にいるはずなのに、彼女の言葉通り忘れてしまっている自分に苛立ちを感じた。意地になっていることもわかっている。


本人も返さなくていいと言っていたはずだ。だけどこのまま忘れてはいけない気がして、せめてちゃんとお礼を言いたい。




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