世界が私を消していく
祝日明けの木曜日、学校へ行くと〝普段通り〟だった。
誰も私に関心を持っていない。
——よかった。
私の毎日は不安と安心の繰り返し。
学校へ行くまでは、思い出されたらどうしようと恐れていて、忘れられているとわかるとほっとする。
だけど、今日ひとつだけいつもと違うのは、まだ空いている目の前の席をしきりに気にしてしまうことだ。
時枝くんが私の方を見ることなく席に座ったら、忘れられているはず。
それを間近で確認するのが急に怖くなり、咄嗟に立ち上がる。
向き合うことから逃げるように一旦教室から出ようとすると、目の前に影が落ちた。
「あ……」
後ろのドアから教室に入ろうとしていた時枝くんが立っていて、体が石のように動かなくなってしまう。
時枝くんは目を見開いて私を見ると、すぐに横にずれて道を開けてくれた。
「ごめん」
その瞬間、察してしまった。
「……ありがとう」
退いてくれた時枝くんにお礼を告げて、通り過ぎていく。
やっぱり忘れられてしまった。都合よく覚えていてくれるはずがない。
淡い期待を捨て去って、行くあても特になく廊下を進んでいく。
今はとにかく、誰にも見られない場所に行きたかった。
だけど思いつくのは、昨日時枝くんとふたりで話した場所くらいだ。
『忘れたくねぇな』
交わした会話を思い返して胸が痛むけれど、私は逃げ込むようにそこへ向かった。