世界が私を消していく
学校を出ると、首元が少し寒く感じた。今日は晴れていて暖かいほうだけど、さすがにコートだけでは防寒は弱い。
「宮里、寒くない?」
「少しだけ」
「外ふらつこうかと思ったけど、やめとく?」
心配そうに言われて、私は首を横に振った。
「マフラーあるから、我慢できなくなったら巻くよ!」
「え、今した方がよくね? 寒いんだろ?」
「だって……マフラー巻くと変な見た目になる」
私のマフラーは分厚くて、巻くと髪の毛がくしゃっとなってしまう。そのボサボサな姿を時枝くんの前で晒すのは、できるだけ避けたかった。
「風邪ひきたいの?」
「そういうわけないけど、でも」
「宮里、マフラー」
「……はい」
渋々カバンを開けて、マフラーを取り出すと時枝くんが噴き出した。
「カバン、ほぼマフラーが占領してんじゃん!」
「これ暖かいんだけど、かさばるんだよね」
「かして」
巻くことを躊躇していると、すっと時枝くんが奪う。そして私の首に、ふわりとマフラーをかけた。
くるりともう一周して巻いてくれている中、私は頬の熱が上昇していくのを感じる。
「髪、外に出したほうがいい?」
「う、うん」
近い距離に、首に回される時枝くんの手。目の前には濃紺のコートが見えて、あと一歩前に進んだら、抱きつくような形になってしまう。
緊張して体を硬直させていると、時枝くんの手が私の髪に触れる。
髪の毛がマフラーに巻き込まれないようにしてくれて、もう一度丁寧にマフラーが巻かれていく。長いため二重にされて、先の方が軽く結ばれた。
「ふっ」
「……時枝くん、今私のこと見て笑ったでしょ」
小さく笑ったのを見逃さなかった。絶対私のマフラーを巻いた姿に笑ったに違いない。
分厚いマフラーの上に顔がちょこんとのっていて、赤ちゃんの首浮き輪をつけたみたいだとお母さんにも笑われたことがある。
別のマフラー変えようかと思ったけれど、これが一番暖かくて手放せないでいる。だけど今日時枝くんと帰ると知っていたら、違うのを持ってきたのに。
「や、かわいいなと思っただけ」
そんなこと締まりのない笑顔で言われても、からかわれているようにしか思えない。
疑いの眼差しを向けていると、時枝くんが私のマフラーに手を伸ばしてくる。
「本当だよ。宮里、白似合うね」
結び目をぽすっと軽く叩くと、時枝くんが歯を見せて笑った。
私はすぐに俯いて、コンクリートをじっと見つめながら叫び出したい気持ちを耐える。
深い意味はなくても、言われているこっちは心臓がもたない。
「からかったわけじゃないって! 本当ごめんな?」
私が怒ったと思ったのか、時枝くんが慌てだしたので顔を上げる。すると、時枝くんが固まってしまった。
「顔、赤」
「っ、そういうこと口に出さないで!」
軽く時枝くんの腕を叩くと、おかしそうに笑われてしまった。こんなふうに誰かと話して笑い合ったのは、いつぶりだろう。