世界が私を消していく
再び捜索を開始しようとすると、風邪を引かれたら困ると、時枝くんによって折り畳み傘の袋の探しを禁止された。
「俺が探すから、宮里は待ってて」
「でも私のなのに」
「家近いし、朝とか学校帰りに探してみるから」
そんな会話をしながらふたりで河原から離れて、道路まで戻った。その時だった。
白いガードレールに紺色のものがかけてあり、慌てて駆け寄る。
「時枝くん! これ!」
手に取るとチリンと鈴の音が鳴る。見覚えのある桜のキーホルダーがついていて、花弁が少し欠けているけれど、間違いなく私の折り畳み傘の袋だ。
「誰かが拾って、ここにかけておいてくれたのかもしれないな」
「見つかってよかった」
私と時枝くんを繋いでくれた大切なものが手に戻ってきたことに、ほっと胸を撫で下ろす。
「念のため、これ俺が預かっておいていい?」
時枝くんは再び私のことを忘れるのではないかと不安なようだった。私は袋についている土埃のようなものを軽く払ってから、袋を時枝くんに手渡す。
「でももしかしたら、明日は……全部元に戻ってるかも」
あの不思議なレインドームの話は時枝くんにしていない。けれど、私の言葉に時枝くんはなにかを察したのか、深くは聞かずに「そっか」と呟いた。
「大丈夫だよ」
心配している様子の時枝くんに私は告げた。
本当は少しだけ強がっているけれど、でもあのときとは違う。誰も私の声を聞いてくれないと思い込んでいたけれど、今は信じてくれる人がいる。
それから時枝くんは学校の最寄り駅まで送ってくれた。
別れ際、私がくしゃみをしてしまったため暖かくするようにと、また分厚いマフラーを首に巻かれた。二度もあの姿を見られたことが、ちょっとだけ恥ずかしい。
マフラーに顔を埋め、ひとりで電車に揺られながら空いている座席を眺める。
——未羽の部活がオフの日は、ふたりで電車に乗って帰っていたな。
未羽の部活の話や、中学のときの友達の話、SNSをふたりで見ながらこんなおもしろい動画を見つけたとか、次に公開される映画の話をして、話題が尽きなかった。
そこまで昔の話ではないはずなのに、今は懐かしく感じる。
帰ったら、レインドームに元の世界に戻してくださいと願おう。
目を逸らした未羽を思い出すと、また避けられるのではないかと足が竦みそうになるけれど、未羽との関係を適当に終わらせたくはなかった。