世界が私を消していく
電車を降りて改札を通ると、すっかり空は暗くなっていた。
太陽の光の代わりにカラオケや居酒屋の看板が眩しく、昼間とは違う顔で駅は賑わっている。タクシー乗り場の近くで楽しげに騒いでいる大学生らしき人たちを横切り、細い路地を歩いていく。
そこを左に曲がり、直進していくとやがてふたまたの道が見えてくる。私と未羽がいつも別れる場所だ。
街灯の下に誰かが立っているのが見えて、目を凝らす。私を同じ制服を着ている子が、こちらの存在に気づいて駆け寄ってくる。
「紗弥!」
私の名前を呼んで勢いよく抱きついてきたのは、間違いなく未羽だった。
「私、なんでかわからないけど紗弥のことが思い出せなくて! あんな態度とってごめん……って、言ってることおかしいよね」
私は静かに首を振って、未羽のことを抱きしめ返す。どうやら急に消した記憶が戻ってきて混乱しているようだった。
「部活が終わったら、紗弥ととにかく会わなくちゃって思って。それで家まで行ったけどまだ帰っていないみたいだったから、ここで待ってたら会えるかなって」
「……どうして会いにきてくれたの?」
「裏アカウントの件、紗弥と話したくて。メッセージ送ろうか迷ったんだけど、やっぱり会って話したかったんだ。待ち伏せなんてして驚かせたよね」
どこか落ち着かない様子で話しながら、未羽は私から離れる。そして泣きそうな表情で見つめてきた。
「私ね、紗弥の裏アカウントだって言われてたやつ見たら、自分の悪口が書いてあって……内心鬱陶しいと思われてるのかもって怖くなった」
裏アカウントには【M羽って仕切りたがりで痛い。サバサバしてる私、かっこいいとか思ってるでしょ】【M羽って男バスの先輩狙いなの丸わかりでウケる】など色々と書かれていた。
私たちは未羽の部活がない日の放課後は一緒に帰ったり、休日もよく遊んでいたけれど、学校で一緒にいることはほとんどない。
なので、私が未羽と仲がいいことを知る人物が未羽のことを書いていたのだと思う。
「それに私が英里奈に余計なこと言っちゃって」
「余計なこと?」
「部活で揉めたときに、クラスでも問題起こってるんだからそういうとこ直しなよって思わず言っちゃって。そしたら他の子が由絵ちゃんから詳しく話を聞いてたみたいで、部内で広まっていったんだ」
それで英里奈は、私が言いふらしたのだと誤解をしたようだ。
「裏アカウントが広まったときに英里奈が、紗弥のこと口が軽いって小坂さんたちに話してるの聞いちゃって……こんなことになって本当ごめん」
未羽は自分の発言が原因で私が英里奈の怒りを買ってしまったことを知り、後ろめたさもあったらしい。
「それにあのアカウントが紗弥なのかどうかもわからないのに、避けて傷つけたよね」
「……私だって思ってるわけじゃなかったの?」