世界が私を消していく
「それで? そもそも紗弥が私に酷いことしたんじゃん! 私が真衣と揉めてること、バレー部の子たちに言いふらしたのが悪いんでしょ」
英里奈と真衣の喧嘩の件を、私が未羽に言って、それがバレー部に広まったことを指しているのだろう。けれどあれは英里奈の誤解だ。
「たしかに、未羽に少し揉めてるとは話したけど、英里奈と真衣のこと詳しく話したりしてないよ」
「まだ嘘つくわけ? 私が真衣の好きな人を奪おうとしてるとか、そういうことバレー部に広めたくせに!」
「それが原因なの?」
ぴくりと英里奈の眉が動いた。彼女が感情的になればなるほど、わかりやすく顔に出る。
「一条くんと私はほとんど話したことないのに、あんなこと書いたのはどうして?」
「……そうやって鈍感なフリしてるとこムカつくんだけど。自分が一条くんから好かれてることわかってたんでしょ!」
「一条くんとは、真衣と一緒にいるときに少し言葉を交わしたくらいだし、特別好かれてるって思ったこともない」
「ならなんで、一条くんが紗弥のこと聞いてくるの!」
「え……どういうこと?」
涙目になりながら英里奈は憎悪が込められた視線を向けてくる。
「せっかく一条くんのバイト先が私と家と近くて、ふたりで話す機会ができたのに。私の話より、紗弥のこと聞いてくるし」
「ちょ、ちょっと待って!」
一条くんが私のことを英里奈に話していた? だけど私と一条くんには接点がほとんどないし、好意を向けられているようにも思えなかった。
「好きなアーティストの話をしてたら、〝宮里さんってなに聴いてんの?〟聞かれた私の気持ちがわかる?」
「それは別に深い意味なんてないんじゃ……」
「いきなり紗弥の話をしてくるとか不自然じゃん! 周りに合わせていい顔してるくせに、裏でこっそり抜け駆けしてたんでしょ!」
一条くんにとっては他愛のない会話のひとつだったのかもしれない。
けれど、英里奈は私が一条くんの気を引くためになにかをしたのだと誤解しているようだった。
「紗弥、私のこと一条くんになにか言ったんでしょ?」
「え? なにかって……」
「急に一条くんが私に冷たくなったのも絶対おかしい。バレー部のときみたいに私のこと悪く言ったの?」
「……そう思ったから、裏アカウントを作って私のフリをしたの?」
英里奈は深くため息を吐くと、口元を歪めながら笑った。
「だったらなに?」
「自分が犯人だって認めるんだね」
「どうせ〝嘘つき〟で嫌われてる紗弥が、なにを言っても信じてくれる人なんていないよ」
なにも言い返すことができず、下唇を噛み締める。たとえ私が真実を口にしても、白い目で見られるだけだ。
「なりすましのことがあって、私に優しい言葉をかけてくれたのも……全部嘘だったの?」
「だって、あれで紗弥が休んじゃったら、つまらないでしょ」
「っ、つまらないって、私がどれだけ苦しんだと思ってるの!?」
私が不登校になると望んでいたような状況を作れなくなってしまう。だから、なりすましが現れて追い詰められていた私に英里奈はメッセージをくれたんだ。
「紗弥にされた分、苦しめたかったの。でも私の居場所も奪ったんだから自業自得でしょ?」
ドアが乱雑に開かれて、慌ててそちらに視線を向ける。
「話してたこと、本当?」