世界が私を消していく
「……ごめん、紗弥」
真衣の謝罪につられるように、由絵も「ごめんね」と口にする。
けれど英里奈は、複雑そうな表情で私ではなく由絵を見た。
「でも元々は由絵がバレー部の子に言わなければよかった話でしょ」
だから由絵が悪いのだとでも言いたそうな英里奈に、私は胃のあたりがじわりと熱くなった。
「誰かに対して不満があっても、なりすましてあんなことをしちゃダメだよ」
「それは……ごめん」
英里奈の謝り方に心がこもっておらず、私にまだ不満があるようだった。
「仲が良かったときから、英里奈は私に思うことがあったんだよね?」
「……紗弥って、男子の前で天然ぶっていい顔してるじゃん。一条くんの前でもそういうことしてたんでしょ」
一条くんのことだけではなく、男子の前での態度について指摘されて言葉を失う。
「グループにいたのだって、真衣に気に入られてたからでしょ。紗弥ってなんかひとりだけタイプ違うじゃん。地味っていうか、優等生ないい子って感じで」
なるべく目立つことを避けていて、周囲にとっての〝いい子〟でいようとしていたのは事実だ。
だけど、私が想像していた以上に英里奈の中で私の言動が気に食わなくて、心の奥底に敵意があったようだった。
「それに無理して周りに合わせてる気がして、言葉にいつも心こもってないなって思ってたんだよね」
「英里奈、言い過ぎ」
真衣が止めに入ると、英里奈が眉を寄せて苦笑する。
「ほら、真衣はそうやって紗弥のことは庇うじゃん。そういうのが嫌だった」
確かになりすましの件が起こる前までは、真衣は特に私に対して優しくしてくれているのはわかっていた。そのことに英里奈も気づいていたんだ。
「……英里奈の気持ちはわかった。でもどんなに不満を抱いていても、やっぱり私は英里奈にされたこと、私は自分が悪いとは思えない」
周りから忘れられて、ひとりになってみてようやく気づいた。
無理をしていると、心が迷子になって麻痺してしまう。
感情を押し込んで本音を隠していた友情は些細なことで壊れて、取り返しがつかなくなってしまうことだってあるんだ。
「もう二度とあんなことしないでほしい」
私の言葉に英里奈が目を伏せて、ぎこちなく頷いた。すると、予鈴が鳴り響く。
この四人で一緒にいるのは、きっとこれが最後だ。
もう今までのように一緒にはいられない。
お互いの不満をぶつけて、すっきりして仲直りなんてできそうにはなかった。
教室で戻ろうとする途中、真衣が私を呼び止めた。
「勘違いして紗弥のこと追い込んでごめん」
「……うん」
「みんなにあれは紗弥じゃないって本当のこと話すから」
英里奈が立ち止まり、今にも崩れ落ちそうなほど青ざめた顔をしている。自分が犯人だと次は広められると思っているのだろう。
そんな英里奈を、真衣は目を細めて見つめると「紗弥はどうしたい?」と聞いてきた。
「私は――」