世界が私を消していく
英里奈が犯人だったと真衣の口から広まれば、信じる人もいるはず。けれど、そしたら今度は英里奈が周囲から白い目で見られて孤立する。
どうなるのかは、自分が経験したので想像ができて、再び胃が鈍く痛んだ。
「私は誰が犯人かじゃなくて、自分の潔白が証明されればいい」
「本当にそれだけでいいの? 英里奈に陥れられたのに」
由絵が信じられないと言いたげに眉を寄せた。けれど私は首を縦に振る。
「……紗弥は甘いよね」
不服そうな真衣に、私は苦笑しながら違うと答えた。
「誰かを追い込んで、英里奈と同じになりたくないだけ」
許せないという気持ちは消えない。あんなことをされて、簡単になんて折り合いをつけられない。
同じ目に遭ってしまえばいいと、こっそり思っている醜い自分もいる。
けれど、独りぼっちになって悪口を言われている英里奈を見たら、私は少なからず自分の決断によって誰かを苦しめているという罪悪感を抱く。
自業自得と言ってしまえばそれまでだけれど、心に引っ掛かりを覚えたまま学校生活を送りたくない。
「英里奈はこういう私がいい子ぶってるって思って、嫌だったんでしょ?」
「……そうだね」
自分の悪事が明るみに出ることなくホッとしているようだけれど、私を見ている瞳には苛立ちが滲んでいる。
「それなら、私は英里奈が嫌な私のままでいるよ」
英里奈は眉根を寄せて、私の真意を探るような目で見てきた。視線を逸らすことなく、私は口角を上げる。
「英里奈のために、自分を変えてなんてあげない」
いい子ぶっていてなにが悪い。私は自分の心の平和を守りたいだけだ。
嫌いなままでいい。もう好かれたいなんて思っていない。
故意に人を傷つけて、追い込むような人間になんてなりたくない。
「やっぱ紗弥のいい子なところが嫌い。そういうの見せられると、いっつも自分がすごく惨めに感じてた!」
英里奈は泣きながら、顔をぐにゃりと歪める。
「真衣だっていつも〝紗弥は英里奈よりいい子だから〟〝紗弥は優しいから〟って言って、私と比べてきたでしょ! 冗談だったのかもしれないけど、私はそれがずっと嫌だった!」
真衣が衝撃を受けたように口をぽかんと開ける。
「……ごめん。英里奈がそれ気にしてるなんて思ってなかった」
「でもそれって紗弥が悪いわけじゃなくない? それに羨ましいなら、自分もそうなれるように頑張ればいいじゃん」
呆れたように由絵が言い返すと、英里奈は首を横に振って「なれないから嫌だったの!」と震えた声を上げた。
「紗弥みたいに善人になってみたかったよ! 好かれようと頑張ってるつもりだったのに、結局私はすぐ人が羨ましくなって、些細なことで苛々してうまくいかないし。自分の感情が抑えきれなくて……最低なことしたってわかってる」
「あのさぁ」
真衣がなにかを言おうとしたのを、私は軽く腕に触れて制する。