世界が私を消していく
自動販売機の前に着くと、時枝くんがちょうど飲み物を買っているところだった。
私に気づくと、時枝くんは「少し話さない?」と声をかけてくる。
「……うん」
私は自動販売機でお茶のペットボトルを購入してから、廊下の隅の方で待っていた時枝くんの隣に立つ。
「あのさ、宮里」
声がいつもよりも硬い気がして、身構えてしまう。
「最近、大丈夫?」
「え?」
「宮里、思い詰めてる顔してるから。……なんとなく理由はわかるけど」
彼が言う〝理由〟がなにを指しているのか聞かなくてもわかる。
英里奈だけが仲間外れになっているのは一目瞭然だ。
「……どちらかの味方をしたいわけじゃなかったんだ」
でも結局流されて、英里奈をひとりにするような状況になっている。
「私がなにかされたわけじゃないのに。だけど、自分に矛先が向くかもって思うと、怖くてなにもできなくて」
英里奈たちの件で溜め込んでいた思いを口にするのは、初めてだった。
言葉にすることで、自分の中にある感情の形が見えてくる。
「けど、やっぱりこのままは嫌だな」
一条くんのことが好きだってことも、真衣に打ち明ける勇気が出なかったのかもしれない。だって私も英里奈の立場だったら、真衣にすんなりと同じ人が好きだと打ち明けることなんてできない。
「楽しかった頃に戻りたい」
話を切り出すことは怖いし、できれば平穏に過ごしたい。話してもお互いが納得する結果にならなくて、以前のように一緒にはいられなくなる可能性だってある。
けれど気まずい思いを抱えながらなにもせずにいたら、いずれ後悔をすることになるかもしれない。
「近いうちに、みんなと話してみる」
「……そっか、なんか余計な口だしてごめんな」
「ううん。気にかけてくれてありがとう、時枝くん」
お礼を言うと、時枝くんが安堵したように柔らかく微笑んだ。