Gentle rain
俺はシャンパン片手に、両手を上に挙げて、降参のポーズを取った。


そのポーズが功を成したのか、夏目は会う事に、俺の傍に寄ってきてくれた。

当然、20歳の若者が語る経営方針など、どれも理想ばかりだったが、そういう熱いモノを忘れかけている俺にとっては、どれも眩しいものだった。

それ以上に驚いたのは、その若者が語る理想が、次の年には現実になっていることだった。


あれから数年後、夏目はまだ23歳のいわゆる青年実業家だが、周りも皆、一目置く存在となった。

数か月に一度行われる懇親会の場でも、少し離れた場所から彼を見ると、社長に成りたての頃の怯えた表情は、どこへやら。

一回りどころか、二回り以上も歳の違う年配者達と、上手く渡り合っている。


「やあ、階堂。」

最近ようやく俺を、呼び捨てにしてくれるようになった夏目は、俺の姿を見ると、必ず傍に来てくれた。
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