Gentle rain
「菜摘と結婚しないか?」

『えっ?』と小さな声を上げて、菜摘さんは俺をチラッと見つめた。

彼女はおそらく、俺の出方をうかがっているようだ。

「いいですね。お願いします。」

先手を切った俺に、菜摘さんは驚きの様子を見せた。

俺がすんなり了承するなんて、論外だと思っていたのだろう。

しばらくして彼女は、何も言わずに、立ち上がった。


「目出度い事だ。そうだ、二人で庭を散歩してくればいい。」

「はい。」

そう言われた菜摘さんは、比較的新しいサンダルを俺に履かせて、俺の少し前を歩き出した。

「すみません。父がとんでもない事を言い出して。」

そう言った彼女には、笑顔がなかった。

「とんでもない事?」

大体見当はついていたけれど、わざと聞き返した。

「今日初めてお会いしたのに、結婚しろだなんて驚いたでしょう?」
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