Gentle rain
「気を付けなさい。」

だが、工藤さんの以外な言葉に、私は顔を上げた。

「お客様に本気になったら、後で泣くのは夏目さんの方よ。」


思いがけないセリフに、なんて返したらいいかわからない。

まるで以前に、工藤さんが同じ体験をしたかのようなものだったからだ。

「ね。」

相変わらずの優しい口調に、やっと私は「はい。」と返事をする事ができた。


在庫チェックが終わったのか、工藤さんはそのまま、レジの方へと行ってしまった。

お客様からのプレゼントを、成り行きとは言え、受け取ってしまった自分が、店員として失格のような気がした。


心が重い。

そのせいか、目線は床へと落ちてしまう。

「あら?」

床の片隅に、何か落ちているのを、私は見つけた。


それは手帳だった。

黒い革の手帳。

私はそれを拾い上げてみた。

誰のだろう……

その手帳を開く事が、いけない事だと知っていても、落とし主を調べる為だと言い聞かせて、後ろのページを数枚めくった。
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