Gentle rain
今のご時世、いくら秘書とは言え、プライベートにまで巻き込むと、公私混同と言われ、下手すればパワハラだ。


「社長。」

「ん?もう聞けたのか?」

さすが仕事が早いなと思いながら顔を上げたら、秘書の子は内線の受話器を持ちながら、こちらを見ていた。

「受付からお電話ありまして、『社長のお忘れ物をお届けにあがった』という方が、いらっしゃっているようです。」

「忘れ物?」

「はい。」


何だろう……

そう思いながら椅子から立ち上がり、念の為に上着を羽織った。


「今行くと、伝えてくれ。」

「はい。」

用件を伝えて、受話器を置く秘書の子の脇を通り、俺は社長室のドアを開けた。

「社長?」

「ん?」

秘書の子が、すかさず俺の開けたドアを、手で押さえてくれた。

「忘れ物って……もしかしたら、手帳なんじゃないですか?」
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