婚約破棄してくれて、本当にありがとう。〜転生者は、まさかのあの人〜
「こちらがエリス様のお部屋です」
私は変装用だっただろう鎧を脱ぎ、軽装に着替えを済ませたセインに、部屋まで案内してもらった。
「あの……」
私はちょっと言い難いけど、言わなければならないことを言う。
「なにか?」
「夜会用のドレスは1人では脱げなくて……メイドを誰か呼んで頂けますか?」
セインは鋭い黒い目を、面白そうに輝かせた。
「もちろん。では、私めが手伝っても?」
「ダメです……!」
焦った私にセインは吹き出すと、大きな声で笑い出す。そんな風に男性から笑われた経験のない私は、仏頂面になりながら言った。
「もうっ。からかわないでくださいます?」
「からかってませんよ。私はエリス様から婚約者に選ばれたいもので、先を急いでしまいました。大変、失礼しました」
にやにやとした悪い笑いを、端正な顔に浮かべながらセインは揶揄った。
私はその後にすぐに来てくれた若いメイドさんに、夜会用のドレスからの着替えと、湯あみを手伝ってもらった。疲れを感じたせいか、その日の夜はすぐに寝てしまった。
「おはようございます」
また昨夜と同じメイドさんに手伝ってもらうと、私は可愛らしい平民服を渡されて着替えた。
エクリュからの伝言によると、なんでもしばらくの間、身分を隠しての生活になってしまうので、ここでは平民として暮らして貰いたいと言われた。
ちなみに設定は、エクリュの親戚筋の女の子で、お嫁に行く前の礼儀見習いとしてここ王都に出て来ている。
「エリスさ……エリス、平民服姿もとっても可愛いですね、似合っていますよ」
朝食の席に出ると、エクリュはその甘い容貌にとろけるような笑みを浮かべて私を見た。
やっぱりドキっとしてしまう。エクリュは私よりそれなりに年上なんだろうし引く手数多で経験が多そうだから、こういう甘い言葉を言うのも、慣れているんだと思う。
「本当だ。昨日はどこからどう見ても、完璧で美しい公爵令嬢だったけど……こうしていると、どこにでも居る町娘にも見えるから不思議だな」
腕を組んでいたセインは、私を見てその鋭い相貌を細めた。
「エクリュさん、褒めてくれてありがとうございます。セインは、一言多いですっ」
私は食卓に腰掛けながら、そう答える。
朝来てくれたメイドさんからの情報によると、二人とも伯爵家の次男や三男らしい。
公爵令嬢の私とも身分的に、釣り合わないこともない。それに他ならない陛下からの肝入りの縁談ともなれば、私のお父様の公爵位は継げないかもしれないけれど、伯爵位や侯爵位を叙爵されることも大いにあり得そうだった。
「その、今日はどうするんですか?」
「……エリスは何がしたいですか?」
質問に質問で返された私はエクリュとセインの顔を交互に見た。
「……したいこと、しても良いんですか?」
二人は一瞬目を合わせると、にこやかに笑って頷いた。
私はここでも神様に感謝した。ありがとうございます!
幼い頃からずっと、お忍びで町歩きとか憧れていたんだよね。
もし私の身分が何かが間違ってバレてしまっても、これだけ強そうな二人と居たら、何があったとしても絶対に大丈夫だと思うし。
「それじゃあ、王都を歩いてみたいです!」
私のその提案に、二人は面をくらったような驚いた表情をすると、大きな声で笑い出した。
「そんなことで良いのか?」
「はい! ずっと、夢だったんです。何も、気にせず誰にも注目されず、大通りを歩いてみたかったんです!」
「……誰にも注目されずは、少し難しいかもしれませんが、良いでしょう。行ってみましょうか」
私は大きく何度も頷いた。本当に町歩きが夢だったからだ。
私は変装用だっただろう鎧を脱ぎ、軽装に着替えを済ませたセインに、部屋まで案内してもらった。
「あの……」
私はちょっと言い難いけど、言わなければならないことを言う。
「なにか?」
「夜会用のドレスは1人では脱げなくて……メイドを誰か呼んで頂けますか?」
セインは鋭い黒い目を、面白そうに輝かせた。
「もちろん。では、私めが手伝っても?」
「ダメです……!」
焦った私にセインは吹き出すと、大きな声で笑い出す。そんな風に男性から笑われた経験のない私は、仏頂面になりながら言った。
「もうっ。からかわないでくださいます?」
「からかってませんよ。私はエリス様から婚約者に選ばれたいもので、先を急いでしまいました。大変、失礼しました」
にやにやとした悪い笑いを、端正な顔に浮かべながらセインは揶揄った。
私はその後にすぐに来てくれた若いメイドさんに、夜会用のドレスからの着替えと、湯あみを手伝ってもらった。疲れを感じたせいか、その日の夜はすぐに寝てしまった。
「おはようございます」
また昨夜と同じメイドさんに手伝ってもらうと、私は可愛らしい平民服を渡されて着替えた。
エクリュからの伝言によると、なんでもしばらくの間、身分を隠しての生活になってしまうので、ここでは平民として暮らして貰いたいと言われた。
ちなみに設定は、エクリュの親戚筋の女の子で、お嫁に行く前の礼儀見習いとしてここ王都に出て来ている。
「エリスさ……エリス、平民服姿もとっても可愛いですね、似合っていますよ」
朝食の席に出ると、エクリュはその甘い容貌にとろけるような笑みを浮かべて私を見た。
やっぱりドキっとしてしまう。エクリュは私よりそれなりに年上なんだろうし引く手数多で経験が多そうだから、こういう甘い言葉を言うのも、慣れているんだと思う。
「本当だ。昨日はどこからどう見ても、完璧で美しい公爵令嬢だったけど……こうしていると、どこにでも居る町娘にも見えるから不思議だな」
腕を組んでいたセインは、私を見てその鋭い相貌を細めた。
「エクリュさん、褒めてくれてありがとうございます。セインは、一言多いですっ」
私は食卓に腰掛けながら、そう答える。
朝来てくれたメイドさんからの情報によると、二人とも伯爵家の次男や三男らしい。
公爵令嬢の私とも身分的に、釣り合わないこともない。それに他ならない陛下からの肝入りの縁談ともなれば、私のお父様の公爵位は継げないかもしれないけれど、伯爵位や侯爵位を叙爵されることも大いにあり得そうだった。
「その、今日はどうするんですか?」
「……エリスは何がしたいですか?」
質問に質問で返された私はエクリュとセインの顔を交互に見た。
「……したいこと、しても良いんですか?」
二人は一瞬目を合わせると、にこやかに笑って頷いた。
私はここでも神様に感謝した。ありがとうございます!
幼い頃からずっと、お忍びで町歩きとか憧れていたんだよね。
もし私の身分が何かが間違ってバレてしまっても、これだけ強そうな二人と居たら、何があったとしても絶対に大丈夫だと思うし。
「それじゃあ、王都を歩いてみたいです!」
私のその提案に、二人は面をくらったような驚いた表情をすると、大きな声で笑い出した。
「そんなことで良いのか?」
「はい! ずっと、夢だったんです。何も、気にせず誰にも注目されず、大通りを歩いてみたかったんです!」
「……誰にも注目されずは、少し難しいかもしれませんが、良いでしょう。行ってみましょうか」
私は大きく何度も頷いた。本当に町歩きが夢だったからだ。