婚約破棄してくれて、本当にありがとう。〜転生者は、まさかのあの人〜
「お前……エリス、まだ食べるのか?」
呆れ顔のセインは私の右手に持ったクレープを指差しながら言った。
「もちろん。こんな街歩きする機会、もう死ぬまでないかもしれないもの! なんでもやってみたいし、なんでも食べてみたいの!」
「大げさだな」
呆れたようにふうっとため息をつくセインに、私はぷうっと頬を膨らませた。
「あなたも、生まれてからずーっと不自由な公爵令嬢になってみると良いわ! 何にも自分の好きなことなんて、出来ないんだから」
私はクレープに行儀悪くかぶりついて食べた。行儀悪いこともしても、爺やにお叱りを受けることもない。
私……今、自由だわ。
「……俺と結婚したら、いつでも街歩きに連れてきてやるよ」
にやっとセインは笑いながら言う。私はなんだか不思議になった。
確かに私は公爵位を持つお父様が居る公爵令嬢だ。けれど、この国タンセントの第二王子に婚約破棄された、誰かから見れば傷のついてしまった令嬢だ。
王宮騎士団の騎士で美形でこんなに良い体しているセインなら、無傷の見目麗しい未婚の令嬢が、こぞって結婚したがるだろう。
なんで、私なんだろう?
「昔、どこかで会ったことある?」
「……なんでそう思った?」
「だって、私みたいな……傷のついた婚約破棄された令嬢じゃなくても、セインならっ……どんな縁談でも……」
「……傷のあるリンゴは甘くなるって知っているか?」
「え? 何言ってるの?」
「俺は、甘い方が好きなんだ」
飄々とそう言い放つと、セインは私の背中を押しつつ、屋台が多い通りから遠ざかっていく。
なんだか、うまく誤魔化されたような気もするけど、町歩きが楽しいから、まあ良いか。
私はきょろきょろと辺りを見渡しつつ、セインと連れ立って歩きながら、クレープの最後の残っていた欠片を口に放り込んだ。
「セイン!」
背後から声をかけられて、私とセインの二人は振り向いた。そこに居たのは、薄茶色の髪と薄い緑色の目を持つほっそりとした体を持つ人だ。
「なんだ、ザスか」
「セイン?」
「騎士団の仲間だよ。もっとも……エリスにとっては、夫候補の一人かな」
私はまじまじとザスと呼ばれた人を見た。確かに彼も美形なんだけど、騎士と言えるほど屈強な体をしている訳ではない。
「私は騎士団の会計や、文書作成担当なんです。戦闘要員でありませんので。お初にお目にかかります。エリス様」
私の不思議そうな顔の考えを、読んだかのようにザスは言った。
「セイン、ルイス団長が呼んでいる」
「……エクリュが? だが、俺は今エリスと……」
「団長の急ぎのご命令だし、何か良くないことかもしれない。こちらのお嬢様のお守りなら、俺に任せてよ」
セインはザスの言葉に戸惑いながらも、エクリュからの命令には逆らえないのか、私を心配そうに無言で見つめた後、来た道を戻り去っていく。
「エリス様、こちらへどうぞ」
残された私は、手招きされてザスが乗ってきたであろう馬車へと近づく。
「……可哀想に。何も、悪いことしてないのにな」
乗り込んだ後、何の感情も見せずにザスは呟き、私の鳩尾に衝撃が走った。
呆れ顔のセインは私の右手に持ったクレープを指差しながら言った。
「もちろん。こんな街歩きする機会、もう死ぬまでないかもしれないもの! なんでもやってみたいし、なんでも食べてみたいの!」
「大げさだな」
呆れたようにふうっとため息をつくセインに、私はぷうっと頬を膨らませた。
「あなたも、生まれてからずーっと不自由な公爵令嬢になってみると良いわ! 何にも自分の好きなことなんて、出来ないんだから」
私はクレープに行儀悪くかぶりついて食べた。行儀悪いこともしても、爺やにお叱りを受けることもない。
私……今、自由だわ。
「……俺と結婚したら、いつでも街歩きに連れてきてやるよ」
にやっとセインは笑いながら言う。私はなんだか不思議になった。
確かに私は公爵位を持つお父様が居る公爵令嬢だ。けれど、この国タンセントの第二王子に婚約破棄された、誰かから見れば傷のついてしまった令嬢だ。
王宮騎士団の騎士で美形でこんなに良い体しているセインなら、無傷の見目麗しい未婚の令嬢が、こぞって結婚したがるだろう。
なんで、私なんだろう?
「昔、どこかで会ったことある?」
「……なんでそう思った?」
「だって、私みたいな……傷のついた婚約破棄された令嬢じゃなくても、セインならっ……どんな縁談でも……」
「……傷のあるリンゴは甘くなるって知っているか?」
「え? 何言ってるの?」
「俺は、甘い方が好きなんだ」
飄々とそう言い放つと、セインは私の背中を押しつつ、屋台が多い通りから遠ざかっていく。
なんだか、うまく誤魔化されたような気もするけど、町歩きが楽しいから、まあ良いか。
私はきょろきょろと辺りを見渡しつつ、セインと連れ立って歩きながら、クレープの最後の残っていた欠片を口に放り込んだ。
「セイン!」
背後から声をかけられて、私とセインの二人は振り向いた。そこに居たのは、薄茶色の髪と薄い緑色の目を持つほっそりとした体を持つ人だ。
「なんだ、ザスか」
「セイン?」
「騎士団の仲間だよ。もっとも……エリスにとっては、夫候補の一人かな」
私はまじまじとザスと呼ばれた人を見た。確かに彼も美形なんだけど、騎士と言えるほど屈強な体をしている訳ではない。
「私は騎士団の会計や、文書作成担当なんです。戦闘要員でありませんので。お初にお目にかかります。エリス様」
私の不思議そうな顔の考えを、読んだかのようにザスは言った。
「セイン、ルイス団長が呼んでいる」
「……エクリュが? だが、俺は今エリスと……」
「団長の急ぎのご命令だし、何か良くないことかもしれない。こちらのお嬢様のお守りなら、俺に任せてよ」
セインはザスの言葉に戸惑いながらも、エクリュからの命令には逆らえないのか、私を心配そうに無言で見つめた後、来た道を戻り去っていく。
「エリス様、こちらへどうぞ」
残された私は、手招きされてザスが乗ってきたであろう馬車へと近づく。
「……可哀想に。何も、悪いことしてないのにな」
乗り込んだ後、何の感情も見せずにザスは呟き、私の鳩尾に衝撃が走った。