私の運命は、黙って愛を語る困った人で目が離せない。~もふもふな雪豹騎士にまっしぐらに溺愛されました〜
 彼女は隣の男と楽しそうに話している。あとほんのひとさじのプリスコット辺境伯家の三男としての理性を失えば、すぐにこの場から走り寄り、彼女を連れてこの会場を出ていたはずだ。

 運命の番という獣人特有のまるで伝説のような話を聞いて、それはどんなものなのかと他人事のように面白く思っていた。けれど、それを一度味わってしまうと言葉には表せない程の衝動がスノウの心の中を占めていた。

 彼女を抱き上げ、自分の部屋へと連れ去りたい。

 隣の男を獣化して噛み殺したいどす黒い気持ちも心のどこかに産まれてきた。そうしたら、あの可愛い彼女はきっと悲しむだろう。スノウを恐れ憎むだろう。あんなに幸せそうな笑顔を向けているのだ。きっと自分の入る隙間などない。

(俺は諦めるしかない)

 恋に落ち、次の瞬間、それに破れた。どうしても欲しいものは絶対に手に入らないという、絶望に彩られた心を持って、これから先ずっと生きていくしかない。

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