夢幻の春

止まない雨はない。でもこの雨は、いつ止む?  


雪人の淡い声を、優しい言葉を、一緒にバターチキンカレーを作ったことを、昨日のことのように思い出してしまうんだ。


また今日もベッドの上で過ごすのだろう、一歩も動くことなく。


部屋で過ごす日々が大半で、たまに出るのは心療内科の通院くらいだ。


もう季節すら感覚としてない。今が何月で、何日かなんてどうでもいい。もうずっとこのまま生きていくのだろう、生ける屍として。


きっかけはいつも些細なこと。


そして後から気づく、もう取り返しもつかないこと。


ぼーっと窓を見つめていると小鳥が入ってきた。どうせ飼っていたのが逃げだし、またすぐ出ていくと思っていたが――そうはしなかった。そのままこちらまでやってきて、気づいたことがある。


くちばしに花弁をくわえている。


「……さくらの花。これを俺に……?」


静かに瑠璃色の鳥がこちらをうかがっている。言葉を交わせるはずもないのに、確かに伝わってくる想いがある。


次の瞬間頭の中に響いた、あの歌詞の言葉が。


『さくらに想いを託そう』



君と過ごした数年間。



君と生きた数年間、幸せでした。



雪人だ。



雪人の言葉だ。



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