聖なる夜に、始まる恋
だけど・・・その夢は破れた、一人の女性の帰郷によって。


私たちの高校での1年先輩の廣瀬彩(ひろせあや)さん。彼女は尚輝にとって、同じ弓道部に所属する憧れの先輩。というより尚輝は彩さんに一目ぼれして、彼女を追いかける為に弓道部に入った。


何度アタックしても彩さんに冷たくあしらわれて、でもめげずにアタックし続ける尚輝。その2人の絡みは当時の学内では「告白ショ-」として一種の名物になっていた。そんな尚輝に、実は私は思いを寄せていた。私にとっては腐れ縁とも言える幼なじみの西川秀と仲が良かった尚輝と、私も話をしたり、たまに3人で遊びに行ったりしているうちに、その真っすぐな人柄と明るさに惹かれて行ったのだ。


だけど、尚輝の目に映る女子は彩さん1人。私の出る幕などないのは明々白々。だから私は好きな人の思いが成就することを応援することにした。好きな人が幸せになれれば、それで充分。自分で言うのもなんだけど、そんな健気な気持ちだった。


余計なお節介は承知で、女子の立場から、尚輝にいろいろなアドバイスを送りながら迎えた2年生のアジサイの季節。この時期に行われる弓道部のインタ-ハイ予選会。3年生にとっては事実上の引退試合となるこの大会を迎えるに当たって、尚輝は最後の勝負に出た。


「俺、今度の大会で、ウチの部の男子の歴代最高記録を超えて見せます。もしそれを達成出来たら、俺と付き合って下さい。」


と言って、難攻不落と思われた彩さんをついに頷かせたのだ。


そして当日。私は居ても立ってもいられなくなって、家を飛び出し、試合会場に向かった。尚輝の試合を見るのは初めて。尚輝に気付かれないように、そっと会場を覗くと、手を胸の前で組み、祈るように尚輝の試合を見つめる彩さんの姿が目に入る。その途端、今の彩さんの本当の気持ちがわかって、私の胸はギュッと痛む。


試合の結果は、尚輝の記録更新はならなかった。それを見届けて、私は踵を返した。その様子を彩さんに見られてたとも知らずに・・・。


そして、尚輝の恋は終わった。全てが終わり、彩さんの後ろ姿を見つめる尚輝に近付いた私は、初めて自分の気持ちを彼にぶつけた。


「やっと私の番が来た・・・。ずっと好きでした、二階くんのことが。」


私はそう言って、固まっている尚輝を見つめた。
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