聖なる夜に、始まる恋
そして決めたことがある。


(アイツが帰って来るまで、待っててやろう。)


そして俺は、その決意をある男の前で堂々と披露した。


『アイツの、京香の帰れる場所なら、俺が用意するから。』


そいつの顔を真っすぐ見て、俺は宣言したんだ。


『言っとくけど、アイツに頼まれたわけでもないし、もちろん約束もしてない。アイツが喜んでくれるかどうかもわからないし、あんたなんかお呼びでないって、あしらわれるだけかもしれない。俺達が今までそんな間柄じゃなかったってことは、誰よりもお前がよく知ってるはずだ。』


『だけど、旅立つ日の朝、アイツが俺んちに来てさ。『じゃ、またね。バイバイ。』って、無理に笑いやがって・・・その顔を見た時、急に・・・そうしてやりたい、そう思っちまったんだよ。だから、決めたんだ。アイツが帰って来るまで、俺はアイツを待ってるって。そして帰って来た時に、それをアイツがどう受け止めるか、それはアイツに決めてもらえばいいことだ。』


・・・酔ってたんだろうな、自分の言葉に。これをさ、京香に急に去られて、戸惑い、落ち込んでいる尚輝の前で言ったんだから。今、思い出すと本当に顔が真っ赤になって来る。


それから2年。京香が帰って来ることを耳にした俺は、京香のおふくろさんに飛行機の時間を聞き、仕事をなんとかやり繰りして、成田に迎えに行ったんだよ。


京香が出て来るのを、今や遅しと待ち構えながら、俺はシュミレ-ションを頭に思い描いていた。


(京香は、俺が出迎えに来てるなんて、夢にも思っていないはず。きょとんとするに違いないアイツに一気に畳み掛けてやろう・・・。)


そして、ついに京香が姿を現した。俺の姿を見て、驚き固まっている。想定通り、よしって、あれ・・・?


次の瞬間、俺も固まってしまった。京香の横に立つ、うん190cmは優にある、スラッと背の高い、蒼い目をしたイケメンの姿が目に入ったから・・・。


京香は「ひとり」で帰って来る。そう決めつけて疑わなかった自分の迂闊さが恨めしい。


アイツが帰って来るまで、俺はアイツを待ってる。そして帰って来た時に、それをアイツがどう受け止めるか、それはアイツに決めてもらえばいいことだ・・・いやはや、我ながらなんと傲慢なセリフだろう。


「あんた、こんな所で何してんの?」


不思議そうに尋ねてくる京香を見て、自分がこの2年、いかに悲しい独り相撲をとっていたかを実感し、ただただ恥ずかしくなる。


「まぁ、なんだ・・・その無事に帰って来たんならなにより。じゃ、そういうことで。」


なにがそういうことなのか・・・居たたまれなくなった俺は、その場を逃げ出すしかなかった。
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