聖なる夜に、始まる恋
なんだかんだとウダウダしている間に、いつの間にか12月。世間はだんだん慌ただしくなって来ている。


『ハニー、僕がいなくて、寂しい思いをしてたかな?でも、喜んで。来週にはまた日本に行けるから。その時には、京香の気持ちをキチンと聞かせて欲しい。よろしくな。』


マーティから、こんな連絡が届く。いよいよ、決断の時が近づいていることを、改めて思い知る。


東京の教授からは、私が約2年の間にカリフォルニアで描いた作品が届いたという連絡をいただいた。


帰国の際に一緒に持ち帰って来られなかったので、船便で送ったのだが、送り先を教授が引き受けて下さったのだ。


『実際に見せてもらって、私の目から見ても、コンクール出展に充分に耐えうると思う作品もあった。』


『ありがとうございます。』


『すぐにいい結果が得られるなんて、安請け合いはもちろん出来ないが、可能性はある。私のもとに帰って来るかどうかは置いておいて、ともかく少しでも早くこっちに出てくるべきだよ。』


教授の言葉は熱を帯びていた。


私自身、のほほんとばかりしていたわけじゃない。就職活動もしてみたが、都会と違い、こちらではカルチャースクールも少ない。当然、講師の枠も少ないし、子供たち相手に絵画教室を開こうかとも考えたけど、生徒集めも簡単ではない。


(やっぱり、東京に出るしかないな・・・。)


画家になることを諦めない限り、やはり今の私には、それが最善の選択肢のように思える。


ついに心を決めた私は、その思いを、両親に告げた。


「夢を追うには、自分がもう決して若くないことはわかってます。だからこそ、今は最善と思える選択をしたいの。あとで後悔だけはしないように。」


私の言葉を聞き終わった二人の表情は固かった。流れる沈黙、私は両親の言葉をじっと待った。


「京香。」


父が重い口を開いて、私に呼び掛ける。


「私はやっぱり賛成出来ん、母さんも同じだ。」


そうはっきり告げる父の顔を私は見つめる。


「それでも行きたいか?」


「はい。」


「なら・・・仕方がない。お前はもう子供じゃない。まして、2年前に留学を認めておいて今更、お前を籠の中の鳥にすることも出来ないからな。」


そう言って、父はため息をつく。


「お父さん・・・。」


「1つだけ条件がある。自分の生活をキチンと自分の力で出来る環境を整えること。私達から金銭的な援助は一切するつもりはない。いいな。」


厳しい口調で告げた父に


「はい、わかりました。約束します。」


私はそう答えて、頭を下げた。
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