聖なる夜に、始まる恋
「私は・・・ううん、私たちは京香ちゃんに辛い思いをさせた。どんなに恨まれても憎まれても仕方ないと思ってるし、あなたの立場からすれば、私の『ごめんなさい』なんて、安っぽい言葉、何にも心に響かないと思う。だけど・・・。」


「だから待って下さい!」


沈黙な表情で謝罪を続けようとする彩さんに耐えられなくなって、私は大きな声を出してしまう。周囲の視線が集まっていることに気付いて、私は軽く頭を下げると、トーンも下げる。


「わたしの方こそ、ごめんなさい。ちょっとイラッとしてしまって・・・先輩に失礼なこと、しちゃいました。」


「こんな時に先輩後輩なんて、関係ないよ。まして私はあなたに先輩なんて奉ってもらえる立場じゃないから・・・。」


「この際、はっきりしておきましょうよ。」


「京香ちゃん・・・。」


「彩さんは私から尚輝を奪うつもりなんか、微塵もなかった。そのくらいのこと、わかってました。」


「・・・。」


「尚輝だって、私を捨てて、彩さんに乗り換えることなんて、絶対考えてなかった。彼はそんな人じゃない、私、これでも尚輝と10年一緒にいたんです。申し訳ないけど、今はまだ彩さんより彼のことをわかってるつもりです。」


「だったらなぜ、京香ちゃんは尚輝の前から、姿を消したの?そんな必要なかったじゃない・・・。」


思わず、そんな疑問を口にした彩さんに


「全部・・・わかってたからです。」


私はつぶやくように答える。何が言いたいの?と言わんばかりに私の顔を見る彩さん。


「私には全部わかってた。尚輝が心の奥底に沈めた思い、彩さんが自分の本当の気持ちに気付いたのに、それに蓋をした理由。全部、わかっちゃってたんです。」


「京香ちゃん・・・。」


「なにもかもわかっちゃうって、いいことばかりじゃないんですね。結局私と尚輝の関係って、彩さんの優しさと尚輝の思いやりで成り立ってるんだってわかったら・・・知らん顔して、このまま過ごそう、何度もそう思ったけど、結局私には無理だったんです。大好きな人を、心から愛してたはずの人を信じきれなくて、私は逃げたんです。」


私はそう言って、唇を噛む。そんな私を彩さんは痛ましそうに見つめている。
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