聖なる夜に、始まる恋
困惑を露にした京香は、隣の男を見る。


「なにかよっぽどの急用か、大切な用事なんだろうから、聞いてあげたら?」


「マーティ・・・。」


「僕は一緒じゃない方がよさそうだから、悪いけど先に京香の家にお邪魔してるよ。」


笑顔で言った男の、その流ちょうな日本語に驚いたが、彼のものわかりのいいその発言には、正直感謝した。


「わかった、マーティ、ごめんね。」


「ああ、じゃ。」


片手をサッと上げて、マーティはすたすたとためらうことなく、京香の家に入って行く。アメリカ人の物おじのなさに驚いたが


「こんな時になんなの?早く言ってよ。」


少し尖った京香の声に、我に返ると


「じゃ、公園行くか?」


と京香を誘う。


「嫌だよ、この寒いのに。ここでいいじゃない。」


突然、訳のわからないことを言い出した俺に京香はご機嫌斜め。


「いや、流石にここでってわけには・・・。」


必死に訴えると


「仕方ないな。」


そう答えて、渋々歩き出す京香。


(こりゃ、まずい展開になっちまったな・・・。)


覚悟はしていたつもりだったが、予想以上の厳しい状況に内心、頭を抱えながら、俺は懸命に今後の展開に思いを馳せる。


そして公園に入って、再び向き合った俺達。


「で、話って?」


いらだちを隠そうともせずに京香は言う。状況が好転する可能性を全く見いだせず、追い詰められた形の俺は


「好きなんだ。」


と唐突に切り出した。


「えっ?」


何を言い出したのかと、唖然とした表情で俺を見つめる京香に


「お前のことが好きなんだ。だから、俺と付き合って欲しい。」


単刀直入に告げた。余計なことを言わずに・・・なんて言えば、男らしく聞こえるかもしれないが、要はパニックになって、半ばやけっぱちになって、こうなったに過ぎない。


(おいおい、こんなんで、いいのかよ・・・?)


もう1人の俺がツッコミを入れるが、もはや手遅れ。矢は弦を離れたのだ。息を呑んで、京香の反応を待つ俺の耳に


「言いたいことはそれだけ?」


という冷たい響きの言葉が入って来る。


「えっ?」


予期せぬ返答に、俺が絶句していると


「じゃ、これで。」


と言い残して、すたすたと歩き出す京香。厳しい状況だとは思っていたが、さすがにイエスもノ-も言ってもらえないとは思わなかった。引き止めることも出来ず、俺はただ茫然と立ち尽くすしかなかった・・・。
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