聖なる夜に、始まる恋
相手にもされないという、まさかの結末に、さすがに心折れた俺は、いい齢をして、泣きはしなかったが、ベッドにもぐりこみ、そのまま朝を迎えた。起き上がる気力もなく、頭から布団をかぶっていると、ガチャリとドアが開く音がした。


おふくろが様子を見に来たのかと思っていると、なにやら芳しい香りが近付いて来たかと思うと


「こらぁ、いつまで寝てるんだぁ。」


といきなり布団を引っぺがされた。なんだとばかりに目を開けると、そこにはニヤニヤしながら俺を見下ろす、昨晩俺の心を折った悪魔の顔が・・・。


「な、なんだよ・・・。」


今度は俺の方が尖った声を出すと


「おはよう。」


とにっこり。戸惑っていると


「ねぇ、車出してよ。」


と唐突な言葉。


「はぁ?」


「連れてって欲しいとこがあるんだ。今から1時間後に出発、いい?」


言いたいことを一方的に言うと、悪魔はさっさと部屋を出て行った。昨日の今日で、さすがにふざけんなと思ったが、基本的にアイツに頭が上がらないという、幼少期からの関係性が身についてしまっている悲しさで、結局俺はベッドから身体を起こした。


慌ただしく身支度を整え、すぐそばのアイツの家の前に車を横づけ。すると結構着飾った、でも防寒対策ばっちりといった京香が出て来て、助手席に乗り込んで来た。


「車のチェ-ン、持った?」


「こっちの冬のドライブじゃ、常識だろ?」


「よろしい。では、出発。」


京香は俺を促す。


「なぁ、どこに行くんだよ。」


「まずは、ホテルクラウンプラザ。」


「えっ、廣瀬さんのホテル?」


「違う、二階さんのホテル・・・でしょ?」


一瞬、間が空いた後


「その二階さん・・・のホテルに何の用だよ?」


と聞くと


「マーティたちを迎えに行くのよ。」


と涼しい顔で答える京香。


(コイツ、自分と彼氏を、俺に温泉まで送らせる気かよ!)


こいつはやっぱり悪魔だ。さすがにカッと血が上ったが、あれ?こいつ今、マーテイ「たち」って言ったよな・・・?


訳がわからなくなるうちに、車はクラウンプラザの正面口に。ちなみにここは尚輝夫人の彩さんがフロントクラ-クとして勤務してるホテルだが、現在彩さんは産休中。


助手席から手を振る京香の視線の先には、マーティとその横に立っている妙齢のブロンド美人がにこやかに手を振り返すと、おもむろにこちらに近付いている。


車を降りた京香に


「京香、ありがとう。助かるよ。」


笑顔で言うマーティ。それに頷いた京香は


「ううん、どういたしまして。秀、トランク開けて。」


と俺に指示を出した。
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