空のアルペジオ
「……というわけで。今日から家なき子です!」

濡れたままの墓石に向かって、胸を張って報告する。
物言わぬ、石に向かって。
人に向かって。

「父さん…。借金とか、冗談じゃないからね、本当に!」

知らなかったけれど、おかげで大変だったんだよ!

―――父が死んだのは、今から10年も前の話だ。

すでに母は不在だったため、一人取り残された私。
親戚類がこぞって引き取ろうとした。
…それが父の保険金目当てだったと知ったのは、父に借金があると分かった時。
保険金のほとんどを借金返済に充てたため、手元に残ったのは微々たる額で、途端に私は不要なものになった。
それからは、親戚中をぐるんぐるんたらい回しにされた。

そして「もう17歳になるのなら」と荷物ひとつで放り出されたのが、今朝。
おりしも、父の命日。
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