空のアルペジオ
一通り決意を固めたあと。
ゴソゴソと鞄の中を漁って、四角い缶を取り出す。

白く塗られたボディに、赤いレトロな文字。
カラカラ音をたてる、缶入りのドロップ。
お気に入りの、オヤツ。
いつでも持ち歩いている。

キャップを開けて、缶を振る。
イチゴ、レモン、オレンジ、グレープ、ハッカ。

淡く透明なアメたちは、宝石みたいに掌で転がる。

ひとつ、口のなかに放りこめば。
その糖度に顎のラインがじんと痛んだ。

頬の痺れまで味わうようにぎゅっと甘さを呑みこんで、立ち上がる。
そのままの勢いで、うん、と思い切り伸びをした。

青い空に手を伸ばす。
頭上には、濃厚な水色が広がっている。
圧力を持った強い陽射しが差し込み、その傍らにもくもくとおいしそうな入道雲が浮かんだ空。

いい天気だ。
今日も、暑いなぁ…。

―――さぁ、行こうかな。

また来るね、と墓石に向かって恒例の挨拶を。
鞄を掴んで、踵を返そうとした―――時。


「………雛子か?」
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