君の初心者
君の初心者

わたしが初めて好きになった人は、同じ合唱部の中田くんだ。

さらさらの黒髪にきれいな顔立ち。わたしよりも頭一つ分大きい身長。外見もかっこいいけど、なによりとっても優しいんだ。

中学のころから歌をやっている中田くんは、高校から合唱を始めた初心者のわたしにも寄り添いながら教えてくれて。


ベタかもしれないけど、いつのまにか、そういうところに惹かれていったんだ。なんて言葉にするのは、恥ずかしいけど……。

でも恋なんて初めてだったから、最初は心臓が高鳴ることや全身が熱くなることに戸惑いを感じた。

恋愛を題材にしたマンガや小説は読んだことあるけど、本当に身体にこんな現象が起こるんだって知って……。

でも、これは不思議じゃない。恋をすると、当たり前になる現象。



中田くんの低くて優しい声を聞いてると、なんだか……。心が落ち着いて、安心できる。

クールに見えて皆のこと気にかけてるところとか、ふっとときどき見せる柔らかい笑顔とか。

———心臓の甘い鼓動を抑えることはできなかったんだ。


高校2年生の冬、中田くんに告白されて、わたしは初めて自分の気持ちに名前を付けることができた。

初恋の……はつ、かれし。

その現実にとまどいつつも、わたしは少しづつ受け入れて行った。その証と言ってはなんだけど、呼び方も“中田くん”から“智也くん”に変えたんだ。

でも“付き合う”ってことが、こんなに大変だったなんて―――。





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