君の初心者

「紗良、こっち向いて。顔上げて」



するとふいに抱きしめられ、体温が上昇して、心臓が大きく鳴り始めた。



「これなら見えないから。顔上げて、俺の胸に耳当ててみて」



わたしは恥ずかしさを押し切り、少し顔を上げ、言われたとおり智也くんの胸に耳を当ててみる。


すると、どくどくどくっと、信じられない早さの心臓の音が聞こえてきた。

えっ、これわたしより速いんじゃないかな……。



「……聞こえた?俺の心臓の音」



わたしの大好きな声が聞こえる。

わたしは胸から少し耳を離して智也くんの身体に腕を回し、顔を上げた。



「うん、聞こえたよ」


「すっごい速いでしょ?……紗良は俺のこと余裕があるって言ってたけど、実は全然そんなことない」



一呼吸置いて、智也くんは続ける。



「むしろその反対でさ。今だって、拒否られたりしないかなとかすごい不安で。だからさ、俺は全然余裕なんてないよ。格好つけてばっかり」



「ごめんね、こんなんで」といって、智也くんはわたしの首元に顔を埋めた。


ずっと、わたしだけがそう思ってるのかと考えてた。

嫌われないかなとかいっぱい考えちゃって、不安に感じて。


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