秘密のノエルージュ
秘密のノエルージュ
中学生になる少し前ぐらいから、自分の身体の変化が嫌で嫌でしょうがなかった。二次性徴は誰にも止めることが出来なくて、徐々に大きく膨らんでいく胸を見ては、比例するように憂鬱になった。
思いきり走ると、張った胸が揺れて痛い。体育の授業で胸にボールが当たると、悶絶するほど痛い。
初潮を迎えてからはこの痛みと違和感が一気に二倍にも三倍にも増幅して、ひたすら苦痛と戦うことになった。
おまけに、同じく二次性徴を迎えた男子たちに、にやにやと身体を見られる。もともと仲が良かったはずの女子たちからも、ヒソヒソといわれのない陰口を叩かれる。その空気の変化を察知すると同時に、自分が普通よりも『大きい』のだと気が付いた。
だんだんと学校が楽しくなくなっていく。胸を隠そうと無意識に前かがみになるせいか、ついつい猫背のような姿勢になってしまう。
二次性徴とその変化についていけない菜帆の不安は、母がすぐに察してくれた。そして彼女はにこやかに言い切る。
『これからもっと大きくなるわよ』
その言葉は菜帆にとって、地獄行きの宣言と同じぐらいの衝撃だった。
胸の大きさは遺伝なのだろう。思えば母も胸が大きい。今ではペタンコにしおれてしまったけれど、祖母も昔は胸が大きかったらしい。だから母は菜帆の歩む未来を知っているのだ。
奈落の底へ突き落されたようなどんよりとした気分をよそに、母はにこにこと笑うのみ。菜帆ももう中学生だものね、と少しだけ感慨深そうな台詞を添えて。