秘密のノエルージュ
けれどそんな憂いさえ忘れるほど、色とりどりの下着の世界は美しかった。工芸品やガラス細工のように優美な一対の下着は、いつまでも眺めていられるほどに菜帆の心を躍らせた。
菜帆にとってその出会いは新しい一歩だった。二次性徴を迎えて以来、はじめて周りより大きく成長し始めている自分の胸を『嫌いにならなくて済むかもしれない』と思えた瞬間だった。
それから菜帆は、自分の胸をマイナス要素だと思わなくなった。もちろん特にプラスの要素になるわけでもない。
けれど下着の補正力でしっかり押さえつけておくことで、月経前の胸の痛みはかなり軽減された。無駄に目立つことがないので、異性にも同性にもじろじろと身体を見られなくなった。
後になって思えば、自分の思い込みが激しかっただけだろう。菜帆の胸など、多分誰も見ていなかったのだと思う。
――大和以外は。
「菜帆、今日は姿勢いいな」
「そ、そう?」
「なんかいい事あった?」
そう言って菜帆をじっと見つめる幼なじみに、中学生になったばかりの菜帆は『鋭いな』と感じた。
けれど『ちゃんとした下着を身に着けているからです!』とは、大和が相手でも流石に言えない。それは男の子にはわかるはずのない、女の子の秘密だから。
言えないはずだった。
わからない、はずだった。
「別に、なにもないよ」
だから誤魔化すように返答すると、大和も『ふーん』と返してきた。だがその表情は、あまり納得していない様子だった。