秘密のノエルージュ

 傍にあったワンピースを頭から被ってヘアゴムで髪を結ぶと、大急ぎで家を出る。大和に指示された三分よりも随分多くの時間を趣味の堪能に費やしてしまったが、最終的に約束の時時に間に合えば問題はないはず。

 エレベーターで二つ上の階へ上がり、大和の家のインターフォンを押す。

「や、大和……?」
「どうぞ」

 指定時間ジャストで再訪すると、大和が笑顔で出迎えてくれた。

 そのまま連れていかれた先はリビングではなく、大和の部屋だった。両親は結婚記念日でディナーに行っているらしい。恐らくリビングには愛犬のマロンがいい子でお留守番しているのだろう。可愛い仔犬がくつろいで眠っているところを邪魔してしまうのは忍びないので、マロンには会わず黙って大和の部屋に通されることにする。

「まだケーキ食ってないんだ。一緒に食おうと思って」

 そう言って久しぶりに入った大和の部屋のテーブルには、ちゃんとお皿に乗ったケーキが二人分用意されていた。

「私、ふた切れ目だよ。絶対太る」
「大丈夫だって」

 自分の家で全く同じ味のケーキをひと切れ食べた。一日にケーキふた切れは流石にまずいと思ったが、大和の隣に腰を下ろすと会話が続かず気まずくなったので、結局ケーキを食べて場を持たせることになる。

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