秘密のノエルージュ

「俺、ずっと菜帆のこと見てたんだ」

 ぽつ、と大和が呟く。

「菜帆の身体がどんどん大人っぽくなっていくから、内心すげー焦ってて。でも菜帆は、俺のこと全然意識してくれないから」
「……」
「だからあの日、菜帆の趣味を知って……確かにびっくりしたけど、『俺しか知らないんだ』って思ったら嬉しかった」

 大和の手が伸びてきて、左の耳に触れる。一緒に、頬にも。

 柔らかくてくすぐったい感覚から逃げようとすると、大和の手がゆっくりと後を追ってきた。

「でもそれだけじゃ足りない。菜帆が誰かを好きになる話なんか、もう聞きたくない。……下着姿も誰にも見せたくないんだ」

 下着姿なんて、相当の偶然が重なった事故じゃない限り異性に見られることなんてない。

 と思ったけれど、大和が言っているのはそういう意味じゃないと気付く。菜帆が誰かと付き合って、深い――大人の関係になる時が来たら、下着姿なんて簡単に見られてしまう。その先も。

 大和は、菜帆に誰かとそうなって欲しくない、それは自分がもらいたいと言っている。その感情を、彼は言葉と手つきで明確に示す。

 改めて聞いた大和の告白は、菜帆の心の中にストンと落ちた。なんだか緊張してぐるぐる考えていた時間が無駄だったんじゃないかと思うぐらいに、簡単に安心してしまう。

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