秘密のノエルージュ
Epilogue
「菜帆」
「わあぁッ……!?」
後ろから突然声を掛けられ、びっくりして大きな声を出してしまった。びっくりするに決まっている。着替え中、だったのだから。
下着姿のまま振り返ると、部屋の入り口に大和が立っていた。はぁ、とわざとらしいため息が聞こえる。
「お前、わざと俺に下着姿見せようとしてるだろ」
「そんな訳ないでしょ! 大和こそ、約束した時間より早く来ないでよ!」
穿こうとしていたタイツを手にしたまま、振り返って叫ぶ。
残念ながらこの部屋には鍵がない。着替え中も就寝中も侵入者を阻めない。おまけに大和も、ノックをしない。だから二年前にも趣味のひとときを見られてしまった。
というか母も母だ。年頃の娘の部屋に男の人をホイホイ通さないで欲しい。いくら幼なじみだからといって。
大和は部屋に入って扉を閉めると、そのまま菜帆の傍に近付いて来た。
「ちょっと、着替えるんだから出て行って!」
「いいじゃん、もうここで待つよ」
「やだ、外で待……って、ちょ、ちょっとおおぉ! 外さないで!!」
「脱がせたくなるのが男の性だって言ってるだろ?」
「今!? ここで!?」
大和の手が腰に伸びて来るので、驚いて絶叫する。この場で下着の引き下ろされるのだと焦って身を捩る。
その直後、扉をコンコンと叩く音が聞こえて二人の動きがぴたっと止まった。
『あんたたち、うるさいわよ』
――お母さんの声だ。
『ご近所迷惑になるから、もう少し静かにしなさいね?』
「……はい」
「ごめんなさい」
扉越しに思いきり不機嫌な声を掛けられて、二人でしゅんと謝罪する。大和と違って中まで入って来ないだけ母の方が良心的だったが、この会話を親に聞かれていたのかと思うと猛烈に恥ずかしかった。