秘密のノエルージュ

「お待たせしました」
「ん」

 着替えを済ませて家を出ると、マンションの共用廊下で大和が待っていてくれた。知らない仲じゃないのだからリビングで待っていれば良かったのに、大和も恥ずかしかったみたいだ。

「映画見に行って、飯食って。あと文房具も見たいな」
「大和」

 幼なじみから恋人同士になって、少しだけ距離感と空気が変わった。と思うのは菜帆だけのようで、大和の態度は以前とさほど変わらない。いつもと同じマイペースだ。

「あの……そろそろ、バレンタイン向けの可愛い商品が売り出される頃で。ちょっとだけ見たいなぁ、なんて……」

 菜帆は大和と恋人になったが、ランジェリーショップにまで連れていくのは忍びない。普通なら嫌がられてもおかしくないし、大和も気まずいと思う。

 だから少しだけ、コーヒーショップとかファストフードとかで待っていてくれないかなぁ。それとも、デートの最中に下着を見るのは止めておいた方がいいものなのかな。なんて、思っていたら。

「うん、いくらでも買ってやる」
「え……いや、買うのは自分で買うんだけど」

 大和はなんだかご機嫌だった。
 なぜ。と首を傾げたら、大和はもっとご機嫌になった。

「菜帆、知らないの? 男が買った服や下着は、そいつだけが脱がせていいって『特権』が付いてくるもんなんだよ」
「!?」

 キラキラで美しくて可愛いランジェリーだけじゃない。下着の世界の常識には、まだまだ菜帆の知らないことがたくさんだ。


  ――― Fin*

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