秘密のノエルージュ
ノックもせずに部屋へ入って来た大和と顔を見合わせた時、菜帆の時間はぴたりと停止した。たぶん、大和も同じだったのだろう。
新しい漫画が入っていると思われる紙袋が彼の手から離れ、その場にどさりと落ちる。
「なっ、な……! 菜帆、おまっ……なんで昼間から下着姿なんだ!?」
一瞬早く動き出した大和が、顔を真っ赤にして手の甲で口元を隠し、そのまま部屋の入り口から数歩離れた。後退り、という表現の方が近いかもしれない。その姿を見た菜帆も、自分の顔が熱く火照るのを感じた。
幼なじみとはいえ、小・中・高と学校が一緒で家が近かっただけだ。いわゆる腐れ縁というやつで、お互いを『他よりは仲がいい異性』ぐらいに認識していたように思う。
けれど一緒に風呂に入った、とか、泊まりに行って一緒に寝ていた、とか、そんな踏み込んだ関係でもない。恋人だった過去もない。
もちろん下着姿を見られたことも無かった。この日までは。
「うるさい! 趣味よ!」
「え、趣味なのか!?」
恥ずかしさと焦りからありのままを叫ぶと、大和が驚いた声を出した。
そうだよ、と言いそうになって気付く。大和は、菜帆が昼間から下着姿になって自分の姿を鏡で確認する行為が趣味なのだと思っているに違いない。