秘密のノエルージュ
もちろん誤解だ。菜帆が趣味だと言ったのは、自分好みの下着を探して、吟味して、いっぱい悩むこと。そして気に入ったものを集めること。買ったからにはちゃんと身に着けてみるが、決して姿見で観察して喜ぶ趣味があるわけではない。
「趣味って……」
「ち、違うよ……!」
「どっちだよ!?」
「どっちでもいいから、一回ドア閉めて!!」
そうやってギャーギャーと騒ぎまくって母に二人まとめて怒られたのが、まだ大学に入ったばかりの頃。今から二年ほど前の話だ。
思い出すだけで顔から火が出そうなほど恥ずかしくなって、ベッドの上で叫びながらのたうち回りたくなる。出来ることなら大和の頭の中からこの記憶だけを抜き取って消滅させたいと思う。
けれど世の中なんでも自分の思い通りに行くわけがなく。結局、菜帆は自分のささやかな趣味を大和に知られてしまう羽目になった。
「もう、最悪……」
それだけではない。菜帆の趣味を知った大和は、照れる幼なじみをからかい尽くすと決めたらしい。
あれ以来、ことあるごとに『今日の下着の色は?』『新しいやつ?』と聞いてくる。もちろん大和に下着姿を見られたのはたったの一度だけ。あの悪夢のようなハプニングは、正真正銘あれきりだった。
うっかり趣味だなんて口走らずに、冷静に受け答えすればよかった。なんて思っても後の祭り。