秘密のノエルージュ
*****
大和からのからかいとセクハラは、あの日以来ずっと続いている。
二十歳同士の幼なじみなど、本来ならさほどべったりした関係ではないと思う。そもそも菜帆と大和は、最初から親密な関係ではなかった。
だから玄関先や通学中の道端や電車の中で鉢合わせる度に『またからかわれている』『遊ばれている』と感じてしまうのかもしれない。むしろそれこそが大和の趣味なんじゃないかとさえ思う。
「菜帆〜」
「あれ? 今日は大和も早いんだね」
四講目が臨時休講になってしまったので、いつもより早い電車に乗る。慣れた乗車位置から車両内に入ると、人がまばらな車内の座席に大和がぽつんと腰掛けていた。顔を上げて声をかけてきた大和に頷き返すと、菜帆もその隣に腰を下ろす。
大和が通う大学の最寄駅は、菜帆が利用する駅の三つ隣だ。朝同じ電車に乗っても菜帆の方が先に降りるし、たまたま帰宅時間が被っても、大和の方が電車に先に乗車している。今日と同じように。
「なんだ、元気ねーじゃん。先輩に下着喜んでもらえなかった?」
「ちがーう! バカ!!」
大きな声で下着下着と言わないで欲しい。パンツとかブラジャーとか言わないだけいくらかマシだけれど、たまに傍で聞いていた人にびっくり顔で振り返られることがある。
それは恥ずかしいし、困るから止めて、と何度も言っているのに。