Aternatelyーイケメン二人と疑似結婚生活⁉ー
奇妙な暮らしがスタート
『拝啓 天国のお父さん、お母さんへ』

 家が無くなりました……いや、厳密に申しますと只今、怖いお兄さんやオジサンたちが大勢押し寄せてきて家中にある家具などに札を貼っていっていた。

「あぁ……あんたが直江(なおえ) 愛夏(あいか)さん?」

 パンチパーマでサングラスに紫のネクタイに前歯が金歯のオジサンに話しかけられた。

「え、えぇ私ですが、これはいったい⁉」

 朝起きて、せっかくの休日に何をしようかと亡くなった家族にお線香をあげていたとき、急に鍵を壊されて侵入されてしまう。
 あっという間に、大勢の人たちによって家の中が荒らされいくのを固まって見ているしかできなかった。

「ほう、随分と若いなぁ。まぁ、しょうがないよな? 借りたもんは返してもらわないと」

 そう言って、ぺらっと一枚の紙を私に見せてくる。
 そこには借用書と書かれ、信じられない金額が書かれており担保はこの家と土地になっていた。

「随分古い家だが、たぶん足りるやろ、だから姉ちゃん心配するな」

 にっこり微笑まれ、何を心配するのだろうか? いや、不安しかない。
 
「ちょ、ちょっと! いきなりなんですか? こ、困ります」

「はぁ? 困るはこっちのセリフじゃい! おいおい、小さいころ習わなかったか? 借りたもんはちゃんと返しましょうって。こっちもこんなことやりたくないんだよな? わかってくれよ嬢ちゃん」

 声を荒げたと思ったら、次第に笑顔になるオジサン、そうこうしているうちに札が貼られ終わると半分以上が帰っていく。

「よっしゃ、これで粗方やな。うんうん、スッキリ。これでお嬢ちゃんも無借金。お金は計画的にご利用いたしましょうね、それではまたのご利用をお待ちしております♪」

 飛び切りの笑顔で玄関から出ていくと、私の両側に立っていた男性二人に腕を掴まれ強制的に外に出されてしまった。

「い、痛い! な、何をするんですか⁉」

 既にあのオジサンの姿はなく、私を外に連れ出した二人が面倒くさそうにボソッと教えてくれた。

「あのな? 書かれてとおり、あんたの家族はウチから借金していたの? その担保にこの土地も入っていたの? わかる?」

「え? それって……」

「あぁ、めんどくせぇ。つまり今日から家無しってこと、早く住める場所みつけな」

 それだけ言い残して、ツカツカといなくなってしまう。
 
「う、嘘……」

 そりゃ古い家だって理解していたけれど、ここは私の大切な家族の想い出がつまった大切な家。
 それが、一瞬で手元を離れていってしまった。
 幼いころに父と母を亡くし、育ててくれたお祖父ちゃんも去年他界し一人でやっていかないとって、頑張ってきたのに……どうしてこうなったの?

 家に戻ろうとしたが、窓にも貼られた札を見ると体が動かない。
 唯一手元に残されたのは、私の部屋着一着と情けなのだろうか、靴が一足だけ……これだけでどうやって暮らせばよいのよ。
 スマートフォンも財布も差し押さえられて、本当に無一文になってしまった。

「え? な、なにこれ」

 ふらふらと立ち上がると、靴を履いて歩き出していく。
 周りの住民からは奇妙な視線しかむけられず、誰も声をかけてなどくれなかった。
 途方にくれて近くの公園まで到着すると、錆びれた遊具に腰掛け茫然としていると、急に涙が込み上げてくる。

「うぅ……な、なんで。どうして……」

 少し落ち着いたら、今度は悲しみが押し寄せてくる。
 整えていないボサボサな髪が頬に触れた。
 それと同時にポタポタと涙が地面にしみ込んでいく。

「私、悪いことしたかな?」

 家族の事情は今は知る術はない。けれども、私は凄く真面目に生きてきたと思う。
 大学時代に一度だけ恋に溺れそうになったけれど、お祖母ちゃんが亡くなってお祖父ちゃんだけになってしまい家の負担が一気に大きくなり、それで先輩との恋人は終わってしまった。

 無事に社会人になれて、今年で四年目頑張って生活も安定してきたのと思ったらこうだ。
 信じられない……なんでこうなったの?

 涙が止まらない、中途半端な都市なのにこの公園には人はいない。
 だから、思いっきり泣ける。 家を失った悲しみ、去年大好きだったお祖父ちゃんが亡くなったときのこと。
 うっすらと覚えている父と母の姿。 お祖母ちゃんの優しい微笑み。
 
「うぅ、皆、会いたいよぉ……」
 
 ぎりっと前歯に力を入れて歯ぎしりをしようとしたとき、こちらに近づいてくる人の気配を感じとった。
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