偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「あかりのおかげだ」
「いえいえ、私は何もしてませんよ」
「そうだ……何もしなくていい」
あかりの言葉を掬い取った響一がふわりと微笑む。まだ真新しい指輪をはめた左手に、彼も右手を重ねてくれる。指を絡め合って、じっと見つめ合う。そしてあかりに、確かな愛を紡いでその存在を教えてくれる。
「自由に生きて欲しい。好きなことをして、ずっと笑顔でいて欲しい。――けど、俺の腕の中で」
「響一さん……」
「俺に力をくれるのは、あかりだけだ」
響一はもうあかりを手放してはくれないだろう。自分を見つけてくれる愛しい人を、自分を認めて癒してくれる存在を失うつもりはない。
そう訴える瞳に頷き返す。
その想いは、あかりも同じ気持ちだ。
「私も、響一さんの傍にいたいです」
だから今度は、あかりの番だ。
響一が人より努力をして自分の地位や愛しいものを手中に収めたように、あかりも彼に見合うような努力をしなければならない。窮屈な世界に戻らなくてもいい理由をくれて、自由に生きることを保証してくれて、好きなことをさせてくれて、笑顔を守ってくれる響一の愛情に応えるように。
ずっと彼の傍にいられるように。
「私、響一さんに応援してほしいことがあるんです。もちろんずるいことはしません」
なめらかなシーツの上に置かれた手に、煌めく夜と同じスイートエンゲージが光る。
「ただ、見守っていてほしいんです」
――繋いでくれた手を、そっと握り返す。