偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

12. 蜜月に溺れて


「響一さん、おかえりなさい!」

 帰宅した響一を玄関先で出迎える。ドア開いた瞬間はいつも少し疲れた顔をしているのに、あかりと視線が合うとすぐに嬉しそうな笑顔を見せてくれる。あかりもその表情につられて、ついにこにこと笑ってしまう。

『ただいま』と返す響一から通勤に使っている鞄を受け取ると、玄関で靴を脱ぐ響一にどうしてもどうしても言いたくて仕方がなかったことを伝える。

「今日、採用通知を頂きました」
「そうか。良かったな」

 しかしあかりが聞いてほしくて仕方がなかった報告に対して、響一の返答はごくあっさりしたものだった。彼の反応を楽しみにしていた身としてはかなり拍子抜けだ。

「あ、その顔は知ってましたね?」
「知らないわけないだろ」

 でもそれも当たり前だと思う。確認するとさらりと肯定されたので『やっぱり』と頷いてしまう。

 あかりが現在働いている職場、リラクセーションサロン『mohara』の営業終了まで残り約一カ月。店長である美奈のお腹が少し目立つようになってきたことを嬉しく感じる一方で、閉店の時が近付いてくるとどうしても寂しい気持ちになってしまう。

 しかし寂しい悲しい、と沈んでばかりもいられない。長く一緒に働いてきた仲間が再就職先を見つける中、あかりも今日、ようやく次の職場を決めることが出来た。

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