偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「少しでも響一さんの役に立ちたいので、一生懸命頑張ります!」
背筋を伸ばして気を引き締め、ぴしっと敬礼する真似をしたら、響一がフッと笑ってくれた。
ネクタイを外そうとしていた手を止めると、その指先が頬に触れる。肌の上をするっと撫でられ、何も入っていない頬をむにっと摘まれる。
「あんまり根詰めるなよ。倒れたら元も子もないぞ」
「大丈夫です。新しいことを勉強できるのは楽しいので」
「そうか。……ま、仕事では甘やかさないが、そのぶん家ではめいっぱい甘やかしてやるから」
その頬に触れる指がいつの間にか耳朶に移動し、大きな手があかりの顔を包み込むように撫でる。
「――ほら」
「響一、さん」
誘いの言葉をかけられる。えっと声を上げる前に視界がくるりと反転する。
気が付けばあかりの身体はソファに押し倒され、上からのしかかる響一の右手はあかりの顎の先に、左手はネクタイの結び目にかかっている。
瞳の奥にぎらぎらと揺れる炎を見つけたあかりは『ご飯が冷めますよ』という文句は口にしないことにした。その代わり彼の背中に腕を回して、足先に引っかかっていたルームスリッパを床の上にポトリと落とす。
あなたが今夜も甘やかしてくれるというのなら――
「私も、響一さんをいっぱい甘やかしますね」
契約結婚から始まった二人は、今もまだ溺れるような蜜月にいる。
―― Fin*