偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 だが今の台詞でおおよそ理解した。恐らく噂の高級鉄板焼き店『炭恋』に入店すれば、あかりは場違いすぎて浮く。しかも一人だけ。

 しかし響一はあかりの不安などどこ吹く風。むしろどこに問題があるのか? とさも不思議そうな態度で首を傾げている。

(ほんとに……入谷様にそっくり。っていうか、同一人物にしか思えない……)

 その姿を見て思う。さすがに一卵性双生児なだけあって、外見は奏一とそっくりだ。それに姿かたちだけではなく声や匂いも同じだなんて、あかりの理解が及ぶ範疇を超えている気がする。

 密かに想いを寄せていた男性と全く同じ顔が、あかりの傍にずずいっと近付く。そしてそのままじっと顔を覗き込まれる。

 あかりがこれまで出会ってきた中でも、とりわけ美男子だと言える整った顔に。美しいブラックダイヤモンドの耀きを放つ瞳に。

「って、あっ、あのぉ……っ?」
「ん? 食べたことないんだろ? 炭恋の肉」
「な、ないですっ! けど……!」

 だが悠長に彼の造形に見惚れている場合ではない。急に肩を抱かれてぐいっと身体を引き寄せられたかと思うと、響一はそのまま横断歩道を渡りはじめてしまう。困惑するあかりの身体を抱きしっかりと肩を掴んだまま、移動し始めてしまう。

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