偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
一面のガラスの向こうに都会の壮麗な夜景を望みつつ、二人の話題はお互いの仕事の話に移った。
「じゃあ響一様は、ルビーグレイスの総支配人さんなんですね」
全国の主要都市に合計八つの系列ホテルを有するイリヤホテルグループのうち、赤い宝石の名を冠する『イリヤホテル東京ルビーグレイス』。響一はそのホテルの総支配人を務めているという。
あかりの確認に、ワイングラスから唇を離した響一が『そうだ』と低く頷く。
「奏が総支配人を務める『エメラルドガーデン』と俺が総支配人を務める『ルビーグレイス』が、イリヤホテルグループの中ではティアラランクだ。その上のクラウンランクは『ダイヤモンドヴィラ』のみ。残りは系列全部がコロネットランクだな」
「ほえええぇ……」
イリヤホテルグループでは、上からクラウン・ティアラ・コロネットと呼ばれるランク付けが成されているらしい。
ただしそれは社員や従業員の意識を高めるために設定されたもので、ホテルに宿泊する客には知らされない格付けなのだそう。
だから客は各ホテルの優劣を意識しないが、実は厳しい基準による評価がされていて働く人々はみな上位のランクを目指して日々の業務に勤しんでいるという。
あかりはただただ驚愕するしかない。
「いいですね、イリヤホテル東京ルビーグレイス……泊まってみたいです」
彼と同じワインを口にしながらポツリと呟く。少し声量を落としたあかりの様子に、響一が不思議そうに首を傾げた。