偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 心配してくれるのはありがたいし、不安にさせているのは申し訳ないと思う。だが定期便のように地元に戻ってこいと言われと、さすがのあかりも困ってしまう。

「帰りたくないのか?」
「……帰りたくないです。私、今のお仕事好きですもん……」

 響一に訊ねられ、こくんと頷く。

 プライベートの時間とはいえ、本来はサロンに赴いてくれるお客様に聞かせるような話ではないだろう。けれどあかりの言葉を聞いた響一が、

「楽しいんだな、仕事」

 と笑うので、あかりも素直に顎を引いた。

「華やかなお仕事ではないですけど、お客様に喜んで頂けるのが嬉しいんです」

 リラクセーションサロンの仕事は決して目立つような仕事ではない。仕事内容を聞かれたときは『マッサージ』と答えることが多いが、そうすると何かいかがわしいお店なのかと誤解されて、怪訝な顔をされることも多い。

 けれどそれでもよかった。理解してくれない人にすべてを説明する必要なんてない。あかりはただ、疲れた顔をしたり辛そうな表情をしたり身体が痛いと嘆く人が、施術を受けた後に『すっきりした』『楽になった』と言ってくれるのが嬉しかった。ありがとう、の一言だけで、この仕事が自分の天職だと思えるほどに嬉しくなってしまうのだ。

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