偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「あ、でもmoharaはお洒落な方ですよ。女性のお客様が尻込みしちゃうので、あえて『整体』じゃなくて『サロン』なんです。店長のこだわりだそうで」
「へえ」
リラクセーションサロン『mohara』は、ハワイの言葉で『開花する・花が咲く』という意味を持つ。
身体に溜まった凝りや老廃物を排出し、身体の不調から解き放たれ、晴れやかな笑顔でお店を出る女性客の姿は、まさに花が開くよう。店長の美奈が目指しているのは、そんな日々の疲れを癒して前向きになれるきっかけとなれるような居心地の良いサロンだ。
店の雰囲気やスタッフが全員女性であることから必然的に女性客が多いが、もちろん男性の利用客も大歓迎だ。だから奏一もmoharaを好いていて、常連客として通ってくれている。
あかりはそんな素敵な場所を作る一員でありたい。地元に貢献したい気持ちもないわけではないが、生まれ故郷は本当の本当にド田舎で、隣の市まで行かないと癒しのサロンなんて存在しない。だから本当はこれからもあの場所で働きたいと思っている。
けれどあかりの想いとは裏腹に、両親の希望の声は年々大きくなってきている。あかりを地元に呼び戻したくて、催促の連絡がひっきりなしにやってくる。電話ならば『忙しい』で出ない事も切ることも出来るが、メッセージは否が応でも受信してしまう。