偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「え、まさか……する、……ん、ですか?」
「? するだろ。夫婦だぞ?」
あかりの問いかけに、響一が首を傾げる。かなり勇気を出して訊ねたのに、彼の仕草はあかりの方が変なことを言っているとでも言いたげだ。
「え、だって……契約結婚ですよね……?」
そうだ。結局内容を詳細に記した契約書は作成しなかったが、二人の結婚は『利害関係の一致』――あくまでお互いの元にやって来る結婚話を退ける事が目的のはずだ。
だから契約結婚の約束をしてから今日に至るまで、響一の態度は一貫していた。必要以上に接触も連絡もない。とにかく最短で契約結婚を成し遂げることだけを優先する。そんな印象だった。
そして二人の契約は無事に締結した。かりそめと言えど、法律上は夫婦になったのだ。
ならばあとは淡々と生活していくだけ。時に協力し合うこともあるかもしれないが、普段はただの同居人として過ごすだけだろうと思っていた。なのにここにきて、突然の『する』発言。
何をするのか、は聞かなくてもわかる。さすがにそこまで子どもではないし、すっとぼけるつもりもない。