偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
けれど理解することと受け入れることは別の問題だ。あかりは響一と深い関係になることを一切想定していなかった。
何故なら響一は、あかりを好きになって求婚したわけではないから。恋愛の先にある甘くて幸せな結婚ではないから。
「あの……こ、こういうのは……その……好きな人とした方がいいと思います!」
響一が腰を撫で始めるので、慌ててその手を上から掴む。さらに彼の行動を阻むために叫ぶように訴える。
あかりの身体を撫でていた指の動きが止まる。そして必死に抵抗する表情をじっと観察される。
しばし見つめ合った二人だが、あかりの鼓動はどんどんと加速していた。いじわるな人のいじわるな瞳と見つめ合うと、胸の奥がきゅう、と小さな音を立てる。
その表情にフッと息を漏らした響一が、そのまま下を向いてくつくつと笑い出した。
「な、なんで笑うんですか……?」
「いや……可愛いと思って」
あかりがむっとした声を出すと、響一が『悪い』と言葉を切った。しかし彼は本当に悪いと思っているようには見えず、あかりの顔を覗き込むと、意地悪な笑みをさらに深めた。目を細めて口角を上げて、口調はどこか楽しそうに。
「もしかして経験ないのか?」
「え、えっと……」
「分かりやすい奴だな、お前」
意味深に微笑まれ、一気に恥ずかしくなってしまう。恋愛経験の乏しさを指摘されたように感じてしまう。