偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
そう。彼の察しの通り、あかりは恋愛経験が豊富なわけではなかった。
一応高校を卒業するまでに彼氏がいたこともあったが、それはどれも淡い恋ばかり。少女漫画のような展開を夢見る、幼い恋ばかり。田舎で変な噂が立つことを恐れていたこともあって、高校生までの恋愛はそのどれもが清らかなものだった。
その後都会での生活に憧れて上京したが、就職してからは家と職場を往復する毎日で、恋愛に発展するような経験はほとんど積んでこなかった。時折、同じく上京した地元の友達や仕事仲間から合コンの席に誘われることはあったが、特に実りの無いままこの年齢になってしまった。
もちろん大人の関係にまったく興味がないわけではない。しかし恋愛事からすっかり遠ざかっていたあかりは、恋人のいない生活に不都合を感じなくなっていた。恋愛のない人生が、すっかりと当たり前になっていた。
奏一に一方的に憧れる気持ちはあったが、実際はそんな調子だったので彼とどうにかなるとは本当に一切思っていなかった。もちろんその憧れの人の双子の兄と結婚することになる状況も想像もしていなかった。
まあ、その結婚というのも恋愛結婚ではなくて契約結婚なのだけれど。――と、呑気に考えている場合ではない。
「じゃあ、ちゃんと気持ち良くしてやるから」